筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群 情報サイト

労作後倦怠感(PEM)とエネルギー代謝障害について

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)では、発症前には耐える事が出来ていた身体、認知、立位、感情、感覚の負荷により、一連の症状の特徴的な増悪と機能低下を示す、労作後倦怠感(PEM)があらわれます。1)

過去には一部の医師や研究者が、ME/CFSをデコンディショニング(廃用性)や患者の非合理的な恐怖によるものとみなしていました。
しかし現在はME/CFSをデコンディショニングでは説明できないと言われており、症状の原因はエネルギーをつくるATPの産生・消費の障害ではないかと考えられ、以下のような研究がすすめられています。


2日連続で実施する心肺運動負荷試験

ME/CFS群と対照群のちがいを確認するため、心肺運動負荷試験(CPET)を2日連続で行う取り組みが行われており、客観的指標になるのではないかと考えられています。

ME/CFS群は2日目の試験で、以下のような対照群ではみられない変化が起きており、エネルギー産生の低下が示唆されています。1-4)

換気性作業閾値(VT)において、仕事率(WR)が低下する。報告によっては55%も低下している。
・最高酸素摂取量(peakVO2)の低下、換気性作業閾値(VT)での酸素摂取量(VO2)の低下、換気性作業閾値(VT)の早期の現れ、最高仕事率(peakWL)の低下も報告されている。

*この検査方法は、米国医学アカデミー(National Academy of medicine)で客観的指標になるのではないかと言われています。
ただし症状が重い患者さんには実施できない、または実施後に寝たきりになる恐れもあるため、すべての患者さんには実施できないことを気をつけるように言われています。
つづいて以下の報告もあります。

ME/CFS群に2日間の心肺運動負荷試験(CPET)を実施すると、回復に平均約2週間かかり、3週間以上かかる例や、なかには1年経過後も回復しない例もあった。一方、ふだん運動していない健常者群は平均約2日間で回復した。8)


また2日間連続ではありませんが、ME/CFS患者にカテーテル挿入した心肺運動負荷試験を行った際に、心臓右心系の前負荷不全ならびに、低肺血流タイプ/高肺血流タイプに分けられることが確認され、
高肺血流タイプは、筋肉に酸素が十分いかずに血液が静脈に流れている可能性や、筋肉中のミトコンドリアが酸素を使えていない可能性が示唆されています。5)


代謝機能障害ならびに脳や神経の異常

労作後倦怠感の原因と考えられる、次のような代謝機能障害や、脳や免疫に関する異常が報告されています。1)

・血液、脳脊髄液、筋肉における乳酸の高値、アシドーシスの増加(ピルビン酸⇒乳酸の生成の増加や、乳酸の消費の減少が考えられる)
・運動の繰り返しにおいて、健常者や他状態では乳酸の消費を改善するが、ME/CFSでは乳酸の消費が改善しない
・ME/CFS重症例における解糖系の障害

・本邦MECFS患者における、解糖系からTCA 回路流入の機能低下(ピルビン酸濃度の上昇と、イソクエン酸濃度の低下)と、尿素回路の機能低下(オルニチン濃度の上昇と、シトルリン濃度の低下)6)

・ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)の機能障害を示唆するアミノ酸パターン(PDHキナーゼ(PDHの酵素活性を阻害)のmRNA発現の増加による裏づけ)7)
(PDH:ピルビン酸⇒アセチルCoAの生成時に必要な酵素)

・労作後の症状増悪や認知機能低下の際の、脳活動の変化
・労作後の倦怠感(PEM)の際の、インターロイキン1(iL-1)上昇との関連
・労作後の補体分解産物、酸化ストレス、インターロイキン10(iL-10)遺伝子発現の上昇(免疫系を調節するiL-1,iL-10の上昇は、疲労、痛み、インフルエンザ様、認知などの症状としてあらわれる可能性があります)


ME/CFSは上記のような異常が確認されているため、疾患概念のアップデート、段階的運動療法(GET)の非推奨の理解、そして積極的な診療、支援を行う体制が急務と言えます。


参考:
1)ME/CFSの診断・管理の要点(米国の専門家によって合意された推奨事項)Bateman L, Bested AC, Bonilla HF, et al. Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: Essentials of Diagnosis and Management.Mayo Clinic Proceedings November 2021;96(11):2861-2878

2)Two-day cardiopulmonary exercise test|ME-pedia

3)Maximillian J. Nelson, Jonathan D. Buckley, Rebecca L. Thomson, et al. Diagnostic sensitivity of 2-day cardiopulmonary exercise testing in Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome. J Transl Med. 2019 Mar 14;17(1):80.

4)Snell CR, Stevens SR, Davenport TE, Van Ness JM. Discriminative validity of metabolic and workload measurements for identifying people with chronic fatigue syndrome. Phys Ther. 2013 Nov;93(11):1484-92.

5)Phillip Joseph, Carlo Arevalo, Rudolf K.F. Oliveira, et al. Insights From Invasive Cardiopulmonary Exercise Testing of Patients With Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome. Chest. 2021 Aug;160(2):642-651.

6)慢性疲労症候群の客観的診断に有効なバイオマーカーを発見(大阪市立大学 プレスリリース)
Emi Yamano, Masahiro Sugimoto, Akiyoshi Hirayama, Satoshi Kume, Masanori Yamato, Guanghua Jin, Seiki Tajima, Nobuhito Goda, Kazuhiro Iwai, Sanae Fukuda, Kouzi Yamaguti, Hirohiko Kuratsune, Tomoyoshi Soga, Yasuyoshi Watanabe & Yosky Kataoka
大阪市立大学、理化学研究所、関西福祉科学大学
(ME/CFS患者の血漿成分中の代謝物質の特徴的変化を、メタボローム解析により明らかにした研究)

7)Fluge Ø, Mella O, Bruland O, et al. Metabolic profiling indicates impaired pyruvate dehydrogenase function in myalgic encephalopathy/chronic fatigue syndrome. JCI Insight. 2016 Dec 22;1(21):e89376.

8)Moore GE, Keller BA, Stevens J, Mao X, Stevens SR, Chia JK, Levine SM, Franconi CJ, Hanson MR. Recovery from Exercise in Persons with Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome (ME/CFS). Medicina. 2023; 59(3):571. https://doi.org/10.3390/medicina59030571

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