現在のところME/CFSの特効薬はありません。症状を悪化させないことや、一つずつでも少しずつでも症状をやわらげることが目標です。ご自身の症状や主治医と相談しながら、それぞれに合う治療方法を見つけていきます。
注意:患者さんによって合うお薬は異なります。主治医とよく相談し、用法・用量を守って服用してください。
■ 補中益気湯
慢性疲労症候群では比較的よく使われるお薬で、全身倦怠感や免疫力低下などを改善できるといわれています。
⇒ 慢性疲労に使ってみよう(漢方スクエアのHP)
ただしのぼせなどの副作用が強い場合には控えるようにしましょう。
■ 六君子湯、抑肝散、当帰芍薬散、十全大補湯、葛根湯、加味逍遙散
■ コエンザイムQ10
コエンザイムQ10は身体の中でエネルギー産生や抗酸化作用に重要な物質ですが、この作用が低下してると思われる慢性疲労症候群の患者さんが服用すると、作業効率や睡眠の質を改善できるといわれています。
⇒ 慢性疲労症候群に対する還元型コエンザイムQ10の改善効果について(カネカのHP)
ただしお腹の調子が悪くなるなどの副作用が強い場合には控えるようにしましょう。
【NEW】「ユビキノン(コエンザイムQ10)」「5-アミノレブリン酸(5-ALA)」「クエン酸第一鉄ナトリウム(SFC)」を併用し、症状が改善したという症例が報告がされ、ミトコンドリア機能不全に関わる遺伝子の変異とともに記されています。
⇒ 慢性的な疲れの原因となる遺伝子の変化を発見 ~5-ALAとユビキノンを組み合わせた新しい治療法で症状が改善~(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 先進予防医学共同専攻 リウマチ・膠原病内科学分野)
⇒ アラプラス CoQ10(SBIアラプロモのHP)
*5-ALAの商品はいくつか発売されています。詳しくはHP内をご確認ください。SFCを含まない商品を服用する場合、鉄分を食事・飲料で補うとよいでしょう。
■ ビタミンC
抗酸化作用により疲労感を軽減すると言われています。
■ イミダペプチド
疲労感を軽減すると言われています。
⇒ (イミダペプチドのHP)
■ ビタミンB12
■ カルニチン補充
アセチルカルニチンの濃度低下を補充し症状をやわらげると言われています。
■ ビタミンE、ビタミンB1
■ NSAIDs、ノイロトロピン、リリカ、トラムセット
線維筋痛症の合併などの疼痛をやわらげます。
■ SSRI、SNRI など
セロトニンやドーパミンの代謝異常に有効と言われています。
■ 上咽頭擦過療法(Epipharyngeal Abrasive Therapy:EAT(旧Bスポット治療))
・上咽頭に塩化亜鉛を塗って擦過する治療方法です。EATは粘膜収斂作用&抗炎症・抗ウイルス作用、瀉血作用、迷走神経刺激作用よって多彩な症状が改善されると考えられています。
⇒ 慢性上咽頭炎(病巣疾患研究会のHP)
⇒ EATを受けられる施設(病巣疾患研究会のHP)
⇒ 【NEW】総説 慢性上咽頭炎に対する上咽頭擦過療法
・EATに関連し鼻内翼口蓋神経節刺激法(INSPGS(インスピグス))による全身倦怠感や諸症状の改善も報告されています。
⇒ The efficacy of Intranasal Sphenopalatine Ganglion Stimulation (INSPGS) in Long COVID, and its Possible Mechanisms
■ 和温療法
約60℃の遠赤外線乾式サウナで全身を15分間温め、出浴後30分間の安静保温を行い、最後に発汗量に応じた水分を補給する治療法です。深部体温は約1.0℃上昇し、動脈・静脈は拡張、末梢血管への血流は有意に増加するとされています。
この治療法は中枢・末梢の自律神経やホルモン活性を整え、自己免疫や生体防御機構を活性化します。さらに心を和ませ、心身をリフレッシュさせる効果があり、ME/CFS、慢性疼痛、線維筋痛症で効果が出ています。
⇒ 和温療法(WAON THERAPYのHP)
⇒ 和温療法を受けられる施設(WAON THERAPYのHP)
■ アイソメトリックヨガ
自宅で座位・臥位でできるアイソメトリックヨガを併用し、疲労感の軽減などにつなげる治療方法です。
⇒ ME/CFS患者さんのための臥位で行うアイソメトリックヨガプログラム(岡孝和先生のYoutube)
■ rTMS治療(Repetitive transcranial magnetic stimulation, 反復経頭蓋磁気刺激治療)
頭部に磁気コイルを当て、非侵襲的に「左背外側前頭前野」に磁気刺激を与える治療方法です。脳内に電流を誘導し、神経細胞を活性化したり、神経伝達物質が調整されるとされています。
⇒ ME/CFSに対する経頭蓋磁気刺激治療(NPO法人 筋痛性脳脊髄炎の会のHP)
ここまでの参考文献:
〇神経治療学 33巻 (2016) 1号 p.40-45 慢性疲労症候群の病態機序とその治療 渡邊 恭良, 倉恒 弘彦(2016年5月)
〇BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 特集 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の今(2018年1月)
〇日本医事新報社 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群診療の手引き 編者 倉恒弘彦、松本美富士(2019年10月)
■ 栄養療法
バランスの良い食事。加工食品を少なめに。胃腸症状が有る場合、たとえばカフェイン、アルコール、辛い食事、アスパルテーム(人工甘味料)、場合によっては乳製品やグルテン、のいずれかを止めることにより、症状が軽減する場合があります(*)
(*)Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: Essentials of Diagnosis and Management
■ イブジラスト(ケタス)
活性化したミクログリアの抑制や、ブレインフォグやめまい等を改善することがあります。
またミクログリア活性化抑制とは異なりますが、ニセルゴリン(サアミオン)、イフェンプロジル酒石酸塩(セロクラール)、アデホスが、ブレインフォグやめまい等を改善することがあります。
■【NEW】わさび スルフォラファン
認知機能障害、ブレーンフォグを改善したという臨床試験の結果が報告されています。
⇒ Clinical effects of wasabi extract containing 6-MSITC on myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome: an open-label trial
■【NEW】経口ミノサイクリン
発症から早期のME/CFSやコロナ後遺症に対し、各症状がやわらぎ、パフォーマンスステータス(PS)を改善したことが報告されています。
⇒ Oral minocycline therapy as first-line treatment in patients with Myalgic encephalomyelitis and long COVID: A pilot study
*吐き気やめまいが強い場合は中止することとしています。
■【NEW】抗ヒスタミン薬
・新型コロナ感染後に重症の筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群を発症した一例 - 第一世代抗ヒスタミン剤の効果 -
・新型コロナ感染症後に発症した筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に対する新治療法 ―第一世代抗ヒスタミン剤の効果―
■【NEW】リツキシマブ 治験
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)通院中の筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)患者を対象に、B細胞を標的とする医薬品リツキシマブの医師主導治験を開始しています
参考:症状に基づくME/CFSの管理に関する考慮事項
出典:Diagnosis and Management of Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome(2023年10月)
症状 | 管理上の考慮事項 |
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労作後倦怠感(PEM) | ・ペーシング/休息(PEMの増悪を防ぐ。患者が活動できるときは活動し、疲れているときは休む。活動前に休息計画をする。悪化した際は回復のために休息する。段階的運動療法は推奨しない) ・感覚などの刺激を軽らす ・症状を追跡するデバイス(ウエアラブルデバイスなど)または日記をつける |
倦怠感 | ・ペーシング ・低用量ナルトレキソン(国内未承認薬) ・低用量アリピプラゾール ・抗炎症食 ・サプリメント(*) ・ビタミン欠乏症治療 |
睡眠の問題 | ・メラトニン ・トラゾドン ・スボレキサント ・ドキセピン/三環系抗うつ薬 ・ガバペンチン/プレガバリン |
認知機能障害 | ・日記、記憶補助 ・作業療法 ・低用量ナルトレキソン(国内未承認薬) ・低用量アリピプラゾール ・精神刺激薬(モダフィニルやメチルフェニデートなど)の慎重な使用 |
起立不耐症 | 体位性頻脈症候群のサブタイプまたはチルト時のバイタルサインに基づいて最適にガイドする ・水分/電解質/着圧 ・フルドロコルチゾン ・ミドドリン ・プロプラノロール ・ピリドスチグミン ・グアンファシン |
めまい(頻繁) | 下記を考慮 ・持続性知覚性姿勢誘発めまいの診断 ・理学療法 ・低用量の選択的セロトニン再取り込み阻害薬またはセロトニンノルエピネフリン再取り込み阻害薬の投与 |
筋肉痛または関節痛 | ・市販薬 ・デュロキセチン ・ミルナシプラン ・プレガバリン ・ガバペンチン ・三環系抗うつ薬 ・低用量ナルトレキソン(国内未承認薬) |
ニューロパチー | ・プレガバリン ・ガバペンチン ・三環系抗うつ薬 ・着圧または補装具をを用いた治療 |
感覚の増幅 | ・ノイズキャンセリングヘッドホン ・サングラス ・人混みを避ける ・低用量アリピプラゾール |
胃腸症状 | ・抗炎症食 ・少量の食事 ・プロバイオティクス/シンバイオティクス ・下痢に対する下痢止め薬または抗ヒスタミン薬 ・便秘に対する食物繊維または消化管運動促進 |
(*)ME/CFS患者の多くは、薬剤過敏症や、医療専門家から提示される薬理学的選択肢の不足のためサプリメントを使用 | 下記のような代謝中間体(他の神経疾患における軽度の認知機能障害の治療に使用) ・コエンザイムQ10 ・還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH) ・L-アルギニン ・EPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸など 下記のような免疫学的または抗炎症作用を持つサプリメント ・ラクトフェリン ・ケルセチン(ポリフェノールの一種) ・クルクミン(ウコンの成分、ポリフェノールの一種) 欠乏しているビタミンやミネラルの補充 |
臨床医のための手引書
ME/CFS研究班が、国際ME/CFS学会編「臨床医のための手引書 2014年版」 日本語翻訳を掲載しています。
(更新日:2025-08-10)