こちらは世界13カ国から様々な専門家が集まり総勢50000人の患者さん分の情報をもとに作成された診断基準です。
この診断基準では炎症や多くの神経症状によく着目されており、また筋痛性脳脊髄炎(ME)という病名が推奨されています。
【A】(必須)労作後の神経免疫系の極度の消耗
この中核症状は、主として神経免疫系領域における顕著な症状を伴い、必要に応じて十分なエネルギーを作り出す能力が病的に不足していることである。特徴は下記の通りである。1 | 労作によって起こる著しく急激な身体的及び/又は認知疲労(日常生活での活動や簡単な知的作業のような最小限の労作)が、身体を衰弱させ、症状の再発を引き起こしうる。 |
2 | 労作後の症状の悪化 例えば、急性のインフルエンザ様症状、疼痛、及び他の症状の悪化。 |
3 | 労作後の極度の消耗は、活動直後にも起こりうるし、数時間から数日間遅延して起こることもありうる。 |
4 | 回復までの期間が長びき、通常 24 時間又はそれ以上要する。ぶり返しは何日も、何週間も、又はそれ以上持続しうる。 |
5 | 低閾値の身体的及び精神的疲労(スタミナの欠如)によって、病前活動レベルが相当に低下する。 |
【B】神経系機能障害
以下の4つの症状カテゴリー中の3つのカテゴリーで、少なくとも1つの症状がある1 | 神経認知機能障害 a.情報処理障害:思考の鈍化、集中力低下、例えば、錯乱、失見当識、認知のオーバーロード(過負荷)、決断力低下、ゆっくりとしかしゃべれない、後天的又は労作性失読症 b.短期記憶の喪失:例えば、何を言いたかったのか、何を言っていたのかを思い出せない、言語検索障害、情報回想力低下、作業記憶の低下 |
2 | 疼痛 a.頭痛:例えば、慢性広汎性頭痛は、頸部の筋肉の緊張が関連していると思われる、目や目の後ろ、又は後頭部の痛みをしばしば伴う;偏頭痛;緊張性頭痛 b.激しい痛みを、筋肉、筋腱接合部、関節、腹部や胸部に感じうる。非炎症性の性質を持ち、しばしば移動する。例えば、全身性痛覚過敏、広範囲の疼痛(線維筋痛症の診断基準を満たすかもしれない)、筋筋膜痛又は放散痛 |
3 | 睡眠障害 a.睡眠リズム障害:例えば、不眠症、昼寝も含む過眠、昼間ほとんど寝ていて夜間ほとんど起きている、頻繁な中途覚醒、発病前よりずっと早く目覚める、鮮明な夢/悪夢 b.疲労回復のなされない:例えば、睡眠時間に関係なく覚醒時に極度の疲労を感じる、日中の眠け |
4 | 神経感覚、知覚及び運動障害 a.神経感覚、及び知覚:例えば、視覚の焦点を合わせられない。光、騒音、振動、臭気、味覚及び触覚に対する過敏性。奥行きの認識力低下 b.運動感覚:例えば、筋力低下、痙攣、協調運動の低下、立位での不安定感、運動失調 |
【C】免疫系、胃腸器系、泌尿生殖器系の機能障害
以下の5つの症状カテゴリーの中の3つのカテゴリーで、少なくとも1つの症状がある1 | インフルエンザ様症状は繰り返され、又は慢性的でありえ、典型例では労作によって活性化され、又は悪化する。例えば、咽頭痛、副鼻腔炎、頚部及び/又は腋窩リンパ節の腫大、又は脈の鼓動に合わせて圧痛を感じる。 |
2 | ウィルスに罹患しやすく、回復期間が長びく |
3 | 胃腸管:例えば、嘔気、腹痛、腹部膨満、過敏性腸症候群 |
4 | 泌尿生殖器:例えば、尿意切迫感又は頻尿、夜間頻尿 |
5 | 食物、薬物、臭気、又は化学物質に対する過敏性 |
【D】エネルギー産生/輸送の機能障害
少なくとも一つの症状がある1 | 心血管系:例えば、背中を起こしたままの姿勢に耐えられない―起立不耐性、神経調節性低血圧、体位性頻脈症候群、不整脈を伴うあるいは伴わない動悸、頭のふらつき感/めまい |
2 | 呼吸器系:例えば、空気飢餓感、努力呼吸、胸壁筋の疲労 |
3 | 恒温調節不全:例えば、低体温、著明な日内変動、発汗現象、微熱を伴うあるいは伴わない熱感の反復、四肢冷感 |
4 | 極度の温度に対する不耐性 |
小児科的考察
小児において、症状は十代の若年者や成人よりもゆっくり進行しうる。労作後の神経免疫系の極度の消耗に加えて、最も顕著な症状は、頭痛、認知機能障害、及び睡眠障害など、神経学的な傾向である。1 | 頭痛:激しい又は慢性的頭痛は、しばしば患者を衰弱させる。偏頭痛には、体温の急激な低下、震え、嘔 吐、下痢及び激しい衰弱を伴いうる。 |
2 | 神経認知機能障害:視覚の焦点を合わせることや、読書における困難さがよくみられる。小児は失読症に なりうるが、それは疲労している時だけはっきり表われるようなこともある。情報処理の遅延によって、 聴覚による指示に従うことや、ノートを取ることを困難にする。すべての認知機能障害は、身体的又は 精神的な疲労によって悪化する。若年者が学校のカリキュラムを全部履修することは不可能であろう。 |
3 | 疼痛は一貫性がなく、急速に移動しうる。関節の過度可動性がよくみられる。 |
*診断基準の中に書かれている併存疾患については「関連する病気」をご確認ください。
参考:13カ国からの国際的合意形成のための専門委員会による筋痛性脳脊髄炎(ME)のための国際的合意に基づく診断基準
(原文)Myalgic encephalomyelitis: International Consensus Criteria – Carruthers – 2011 – Journal of Internal Medicine – Wiley Online Library